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「複数の生理指標を用いた高度インタラクティブ教育コンテンツの評価・分析手法の開発」
研究代表者:植野 雅之(大阪電気通信大学)
研究分担者:和田 慎二郎(プール学院大学短期大学部)
高見 友幸(大阪電気通信大学)
研究目的(概要)
シリアスゲーム,トレーニングゲームなどの高度にインタラクティブな教育コンテンツにおける教育効果や有効性を科学的に評価するため,対象となるコンテンツやシステムを操作する人間のリアルタイムの視線行動,心拍,体温,姿勢等などの生理指標を用いて,これらのコンテンツを評価・分析する方法を開発する.そのため,これらの生理指標のリアルタイムデータを収録,計測できるような計測環境を構築する.評価方法開発のアプローチとして,生理指標とコンテンツに対する被験者の集中度の関係を中心に評価分析を進め,総合的な評価・分析方法を開発する.最終的には,その没入・集中に至る人間のモデルの構築までを射程として,分析と開発を進める.
教育システム研究において,教育システム・コンテンツの評価をどのようにおこなうかは,一つの課題となってきた.従来の教育システム研究においては,評価はもっぱら被験学習者に対するアンケートや,事前テスト・事後テストの比較によっておこなわれることが多い.しかし,アンケートは,学習中の学習者よりリアルタイムに得られる情報でないため,結果が正確でなく,アンケート実施時の雰囲気や気分などにその結果が左右されるという問題がある.事前テスト・事後テストによる方法においても,オーバーオールに見た場合での教育効果の測定には有用であるが,学習者のリアルタイムの反応やその過程を観察することはできないため,自ずとその分析能力や精度には限界がある.特に近年のシリアスゲームなどの高度にインタラクティブな教育システムを対象とする場合,これらの評価方法では改善のための情報を得ることが難しく,開発にはほとんど役立たない.また,その情報を元にフィードバックを与えるといったこともできない.
一方で,近年の様々なセンサーの高度化と低価格化,情報処理能力の向上により,人間の様々な生理指標を収録・利用することができるようになりつつある.このようなヒューマンデータは,うまく収集することができれば,これまでのアンケート等の評価方法とは比べものにならない精度で学習者の行動,応答の時間的な変動を得ることができ,かつ,学習過程に関わる情報を収集することができるので,その分析方法・評価方法が明らかとなれば,教育システム研究や教育コンテンツ開発にとって,大きな進歩となりうる.
本研究では,人間より様々な生理指標を計測するシステムを構築し,その生理指標を活用して,教育コンテンツを科学的に評価・分析する手法を確立することを目指す.
既に我々は3DCG造形のためのトレーニングをおこなうためのゲームSTG(Spatial Training Games)として,空間的操作能力を育成するための数種類のゲームを構築し,生理指標を利用しない形で,これまで評価研究を進めてきた(図1〜3)[1].ここでは,3D空間内でターゲットとなるオブジェクトを操作し,ゲートを通り抜け,ある場所まで移動したり,空間内にある別のオブジェクトにぶつけたりする課題をおこなうゲームをおこなわせることで,学習者の空間操作能力を向上させることができる.我々がこれまでに実施した多くの実験から,このような,教育向けトレーニングゲームやシリアスゲームにおいては,これらの環境への没入度や集中度がトレーニング効果に重要な影響を与えるという仮説が得られており,これを検証することが現在の我々の一つの研究課題となっている.
没入度,集中度に関しては,古典的であるが,興味深い研究としてMihaly Csikszentmihalyiが1975年に提唱した「Flow」の概念がある.「Flow」は,人間がスポーツ,登山,チェスといった活動に高度に集中した状態と定義される.また,この状態は図4のように自分の能力と与えられる課題が高いレベルでバランスしたときに生じるとされる(図4).これはいわゆるシリアスゲームやトレーニングゲームを研究・開発する観点からは非常に興味深い.
「Flow」の状態では,学習者は教育・トレーニングの視点でも効率の高い状態にあると考えられるため,学習者のこの状態を検出することができれば,教育をおこなうシステムを評価する一つの指標となりうる.一方で,Csikszentmihalyiが実施した「Flow」研究は1970年代から始まった比較的古い研究であり,アプローチとしても生理指標は用いられず,インタビューやアンケートなどに頼った調査方法に依存しているため,現時点の技術水準においては信頼性が疑わしい部分もある.その後の研究でも,手法についての革新はあまり見られない[2].Flowに関するゲームにまつわる研究としては,さらに多くの要素に分解して,ビデオゲームの分析・デザインに利用しようとする[4]などの研究が見られる.教育分野では,[5]などがあるが,Flowを様々なセンサー情報とつきあわす形で分析しようとする研究は特に見当たらない.
我々は,Csikszentmihalyiの「Flow」を被験者の集中度・没入度を示す高次の指標として捉えて,これと体温,心拍・呼吸といった生理指標やその変動の関係を科学的な実験を通して解明していきたい.この解明によって,トレーニングゲームなどの高度にインタラクティブな教育システムの評価が初めて可能になると考えられる.
また,Csikszentmihalyiは,能力と挑戦のバランスのみを見て,Flowの条件としたが,我々はFlowというものが存在するなら,もっと多くの要素が絡み合うダイナミックなものであってもおかしくないと考えている.精度の高い情報が得られるリアルタイムの生理指標を元に分析すれば,Flowに至る動的な過程やミクロな条件が見えてくる可能性がある.たとえば,被験者にとっての「緊張」「疲労」「情動」といった中間レベルのパラメータを元に集中度や没入度をコントロールする条件やモデルの抽出が実現できれば,より高い成果につながると考えられる.このようなモデルに至ることができれば,教育コンテンツの評価にとどまらず,計測データを元にFlow状態かそうでないかを分別し,Flowにない学習者をFlowに誘導することまで期待できると我々は考えている.これを達成できれば,トレーニングゲーム,シリアスゲームの教育能力は格段に向上させることができ,このような計測環境はその強力なツールとなりうる.インテリジェントに学習者を誘導するトレーニングゲーム,シリアスゲームの開発につながることを期待して本研究を進めていきたい.
参考文献
[1] Evaluation and Analysis of Spatial Training Game for molding arts, Masayuki Ueno, Shinjiro Wada, Yutaka Kida, Noboru Ashida and Kazuhiro Ueda, Proc. of The 2nd 2013 IEEE Global Conference on Consumer
Electronics (IEEE GCCE 2013),p.385-386,2013
[2]Csikszentmihaly M.(1975) Beyond Boredom and Anxiety. Jossy-Bass Publishers, San Francisco,CA
[3]今井浩明,浅川希洋志「フロー理論の展開」世界思想社,2003
[4]Regina Bernhaupt (Ed.), Evaluating User Experience in Games,Springer,(ISBN 978-1-84882-962-6),2010(Chapter 3. Takataro,J.,et.al.”Presence, Involvement, and Flow in Digital Games”p.23-46)
[5]加藤泰久,喜多敏博,中野裕司,鈴木克明,フロー理論に基づく学習教材・学習環境再設計支援のためのチェックリストの評価と改善,教育システム情報学会誌,Vol.30,No.3,p.200-211(2013)